月次決算は発生主義で行うべきか

年次決算は必ず発生主義で行わなければなりませんが、月次決算で「どこまで発生主義で行い、どこまで現金主義を許容するか」は企業ごとに異なります。

現金主義と発生主義のちがい

現金主義は、収益や費用を「実際にお金が受け取られたり支払われたりするタイミング」で記帳する方法です。具体的には、お金が動いたときに取引を記録します。そのため、商品を売っても、入金があるまでは収益として記録されません。(貯金箱のイメージです。)

発生主義は、収益や費用を「実際の出来事が起きたタイミング」で記帳する方法です。例えば、商品販売では商品が売られたタイミングで記帳行います。掛売上となって、回収が翌月以降になったとしても、記帳するのは販売したときであって、お金が動いたかどうかは関係ありません。

会計学においては、発生主義が求められます。理由は端的に、収益と費用を対応させないと企業の成績が見えないからです。お金の支払だけで見た場合(つまり現金主義で考えた場合)、例えば、4/10に仕入れた商品(1,000円をその場で払ったとする)を4/15に販売し(1,300円で掛売上したとする)、5/31に売掛金を回収したとき、4月は「仕入」だけなので月次損益は▲1,000円、5月は「売上」だけなので+1,300円となります。しかしこれだと実際に儲かったのか儲かっていないのかを月次単位で把握することはできません。

現金主義と発生主義のイメージ

現金主義の仕訳
4/10
(借方) 仕入 1,000 / (貸方) 現金 1,000
4/15(現金の動きなし)
仕訳なし
5/31
(借方) 現金 1,300 / (貸方) 売上 1,300

発生主義の仕訳
4/10
(借方) 仕入 1,000 / (貸方) 現金 1,000
4/15(現金の動きがなくとも取引を仕訳する)
(借方) 売掛金 1,300 / (貸方) 売上 1,300
5/31
(借方) 現金 1,300 / (貸方) 売掛金 1,000


月次で損益管理をしたいとなれば、発生主義の考え方を理解し、発生主義の記帳を行わなければなりません。入金や出金を待って、収益や費用の認識していては、適切な意思決定ができなくなるからです。また、債権・債務という考え方からでは、発生主義で記帳することで、いつ入金されるのか(債権管理)、いつ出金するのか(債務管理)かも把握できるため、資金繰りという観点からも発生主義は有用です。

世の中には、期中は現金主義をベースにして、期末で発生主義に振り替えると方法で決算書・申告書を作成する場合もありますが、当事務所では、毎月の月次巡回監査を通して発生主義による試算表(損益計算書・貸借対照表)をお客様にお渡ししております。

発生主義で記帳するための心構えと具体的に行うこと

とはいえ、起業したての時期はやることが多く、最初から完璧に発生主義で記帳することは難しいです。つい、請求書や領収書の確認を忘れて、現金主義での記帳になりがちです。。そのため、当事務所ではお客様には「少しずつ発生主義に慣れてください」とお伝えしています。「金額の大きいものは必ず発生主義で行い、そうでないものは期中は現金主義でもいいですよ」、と。

損益関係について、勘定科目ごとにどのように記帳していくかをまとめます。(月次決算としては貸借対照表についてのチェックも必要ですが、ここでは損益関係に限定します。)

  1. 売上
    現金売上
    ×銀行に入金のタイミグで仕訳
    ○売り上げた日で仕訳
    クレジットカード・QR決済
    ×入金のタイミングで仕訳
    ○決済システムから売上日のデータを取得し売掛金仕訳(入金時に消し込み仕訳)
    (発行)請求書
    ×入金のタイミングで仕訳
    ○請求書発行システムで請求書を作成・送付(入金時に消し込み仕訳)
    ※「金額が僅少なもので請求書発行をしないものなどは現金主義で行う」などのルールも作成
  2. 仕入
    現金仕入
    ×銀行から現金を出金したタイミングで仕訳(この方法、ごくまれに見かけます・・・。)
    ○仕入れた日で仕訳
    クレジットカード
    ×引き落としのタイミングで仕訳
    ○使用した日に仕訳入力(会計システムとクレジットカードを連携していれば基本的に大丈夫)
    電子マネーなど
    【会計システムと連携できる】⇒クレジットカードと同じ
    【会計システムと連携できない】⇒現金と同じ
    (受取)請求書 ※相手の請求書発行具合によるため一番難しい
    ×支払った日に仕訳
    ○仕入れた日(合計請求書の場合は仕入に対応する月)に買掛金仕訳(支払時に消し込み仕訳)
    ※「スポット仕入で金額が僅少なものなどは現金主義で行う」などのルール作り
  3. 経費
    基本的には仕入と同じ
    ※買掛金ではなく未払金で入力
    ※ルールとしては、「毎月ほぼ定額のもの(電話代や電気代など)は現金主義で行う」などを追加

自計化という視点では、お客様にはまずは自分で管理できる売上、次に粗利の管理も含めて仕入、最後に営業利益の管理として経費というようにステップバイステップで発生主義に慣れていただければと考えております。

また、2023年10月からはインボイス制度も始まっていますので、取引先管理として「毎月発生する相手先」や「大口の相手先」は分かるうようにまとめておく必要もあります。(会計事務所側としては、お客様の取引先をまとめることで監査のチェックリストとして利用できるため、取引先の管理はできるだけ詳細に作っていただきたいと考えています。)