土地の売主の相続=シンプル判例まとめ=

最判昭和61年12月5日判決

事実の概要

被相続人A(売主)は、昭和47年7月7日、所有する農地(本件土地)を訴外Bに対し代金4539万7000円で売却する契約を締結した。同日手付金600万円を受領し、同年9月30日に内金1000万円、同年11月30日に残代金を受領するとともに、所有権移転登記申請および引渡しを行う約定であった。

Bは内金支払後、本件土地を訴外C建設に転売した。本件土地は市街化区域内の農地であったため、AおよびC建設は同年10月7日に農地法5条の届出を行い、同月20日に受理された。C建設は同月26日に建築確認申請を行った。しかし、残代金決済前の同年11月25日Aが急死したため、相続(本件相続)が開始し、Aの相続人Xらがこれを相続した。(Aの死後、契約履行が遅れたものの、同年12月15日に残代金が支払われ、翌16日に所有権移転登記が行われている。)

Xらは、相続開始時点では所有権は移転していないとして本件土地を「土地」として相続財産に計上し、評価通達(路線価)に基づき約2018万円と評価して申告したところ、課税庁(Y)は農地法による届出の効力が生じた日に所有権はC建設に移転したというべきであり、相続財産は土地ではなく「売買残代金債権(2939万7000円)」であるとして更正処分等を行った。

主な争点

1.農地の売買契約締結後、所有権移転登記および引渡し前に売主が死亡した場合、相続財産となるのは「土地」そのものか、「売買(残)代金債権」か。

2.その相続財産の価額はどのように評価されるべきか(路線価か、取引価額か)。

法的三段論法でのまとめ

大前提(法規定および解釈)
相続税法上の課税財産の判定においては、私法上の形式的な権利の所在だけでなく、その経済的実質を考慮すべきである。土地売買契約締結後、引渡し未了の段階であっても、契約の履行が確実であり、売主の有する所有権の実質が単に「代金債権を確保するための機能」にすぎなくなった場合には、独立した「土地」としての価値を有さず、課税対象となる相続財産は「売買代金債権」であると解される。

小前提(事実認定)
本件において、被相続人Aは生前に本件土地の売買契約を締結し手付金・内金を受領していた。さらに、農地法5条の届出も受理され、買主側の建築確認申請も行われるなど、契約の履行は確実な段階に至っていた。相続開始時点において、Aの手元に残っていた本件土地の所有権は、残代金の支払を受けるまでその履行を確保するための形式的なものにすぎない状態であった。

結論(当てはめ)
したがって、本件相続においてAから相続人Xらに承継された財産は、実質的にみて「土地」そのものではなく、「売買残代金債権」である。ゆえに、相続税の課税価格は、土地の路線価(約2018万円)ではなく、残代金債権の額面金額(2939万7000円)に基づいて算定されるべきである。